2024年の5月4日、スター・ウォーズの日に配信された短編アニメ『テイルズ・オブ・エンパイア』。
シリーズ前作の『テイルズ・オブ・ジェダイ』に引き続き、珠玉の短編集を見せてくれました。
本記事では、全体の感想とオタク目線での各話解説を行っていきます。
『テイルズ・オブ・エンパイア』全体の感想
いやあ、テイルズシリーズは短編集で絞りに絞ってるから“スター・ウォーズの原液”を飲んでるような気持ちになりますね…。
帝国の支配下で歯車として役割を与えられた2人が、ダークサイドの道をどのように歩んだかが描かれます。
『キャシアン・アンドー』もそうなんだけど、皇帝は登場も言及も一切されないけど、皇帝がいかにダークサイドに基づいて帝国の仕組みを作り上げたかを感じさせる作りになっています。
前回のテイルズでは、「ジェダイ」を冠するにも関わらず、自らの意思でジェダイを去った2人に焦点が当てられました。
今回も、いわゆる帝国の中心物ではない「白人男性の帝国高官」などではなく、人間種族ではない女性2人が主人公となっています。
唯一の欠点は、過去作を見てないと何が何だか分からないであろうこと。
バリス・オフィーとモーガン・エルズベスが主役って映像全作追ってきてる人にとっては、「いいとこ突いてきたな~」だけど、普通は「誰?」だからな。。笑
『テイルズ・オブ・エンパイア』各話の考察&小ネタ回収
前半の1~3話はモーガン三部作、後半はバリス三部作という構成でした。
どちらもよくできている…。
第1話「恐怖の道」(The Path of Fear)
冒頭は『クローン・ウォーズ』シーズン4第19話「魔女狩り」で描かれたダソミア侵攻の戦いです。
ドゥークー伯爵がマザー・タルジンへの復讐のため、惑星ダソミアにグリーヴァス将軍率いるドロイド軍を送り込み、魔女の殲滅を狙った侵攻作戦でした。
カメラワークが『エピソード3』と似ており、一気に戦火の中へ突入していくのには圧倒されました。
無慈悲にモーガンの母親を斬り殺したのはグリーヴァス将軍。
『バッドバッチ』S1第1話の前振り部分で、文字通り2秒だけ登場するために作成された新デザインです。ようやく使いどころが来ましたね。
敵をいたぶって投げるのも、急に第三の手を使って止めを刺すところもまさにグリーヴァス。彼が任務遂行などよりも、戦士としての自身の優位性を敵に認識させることに固執していることがよく分かります。
首を掴みがちなのもコマンドー・ドロイドあるある。(TCW S2EP10でカットの首を絞めてた)
短い描写にもかかわらず、『クローン・ウォーズ』からの連続性を随所に感じさせてくれるシーンでした。
気を失ったモーガンは山の民(The Mountain Clan)に拾われます。
長が魔法を使えて、その娘を含めた村人たちが使えないという事実から、マザー・タルジン(主流ダソミリアンの生き方)に背いて、魔法とは無縁の生活を山で始めた一族であることが窺えます。
『アソーカ』でモーガンの見た目がダソミアの魔女っぽくないと言われていたこともありましたが、あの特徴的なタトゥーはダソミアの壊滅と共に消えてしまっていたのですね…。
山の上から惨状を見下ろして絶望するモーガン。
土の質感がリアルすぎてビビりました…。笑 手の描写も美しくて力強かった。
恐怖と対面したモーガンが、この時点で己の中で渦巻く怒り、憎しみに焦点を絞ったことが伝わってきます。
Confronting fear is the destiny of a Jedi.
by Luke Skywalker (from “The Rise of Skywalker”)
この後に続く悲劇には、スター・ウォーズで何度も示されてきた“賢者による怠慢”が見て取れます。
妻の命のため思い悩むアナキンに、ジェダイの教義に従って “let go”「手放せ」と言い放ったヨーダ。
レジスタンス生存のために計画の有無を聞くポーに対し、レイアの言葉を引用して「希望は太陽のよう」としか返さなかったホルド。
賢者の言うことは正しいのですが、若者の苦しみ悲しみに向き合うことはできず、結果的に事態の悪化を招いてしまいます。
長は被害者ぶっていますが、母を失う不安に苛まれる娘に対し、訳も聞かずに「我らの道を信じて」という原則論で一蹴しました。
モーガンに対しては、意思を尊重すると言っておきながら、戦いを望む異端者扱いをしました。
モーガンの道を定めたのは、復讐の道を取ったタルジンであり、仲間として受け入れなかった山の長であるともいえます。
第2話「怒りの道」(The Path of Anger)
リペイントされたヴェネター級を従えるインペリアル級の図から、帝国の時代に移ったことが分かります。
冒頭からまさかの事実が発覚しました。
モーガン・エルズベスが、TIEディフェンダーの提唱者だったのです。。
あまり詳しくないのですが、『反乱者たち』ではロザルの帝国工場で大量生産が行われていたので、実用化までの設計・開発段階をコルヴァスで請け負ったという形でしょうかね。
そういえば『アソーカ』では、コレリアにも造船場がありました。全体像はどうなってるんだ…?
モフに提案を拒否された後、パレオン(ペレオン訳は本当にやめたんですね…)から接近を受けました。
コルヴァスに戻ったモーガン。
住民たちとのやり取りから、モーガンとの約束内容が明かされました。
モーガンが技術と安全保障を提供することと引き換えに、村人たちは統治権、労働力、惑星の資源を差し出したようです。「帝国に高値で買い取ってもらえる技術があるから、それを作れば大儲けできる」という話でしょう。
正直、なぜ独自の船も持たないであろうダソミア出身でありながら、モーガンが最先端の宇宙船開発技術を持ち合わせているのかは謎ですが、何か背景があるのですかね?
長年の協力関係から、多少の帰属意識を感じ始めていたコルヴァスの人々に裏切られた気分で、悩んでいたモーガンに突如アサシンが襲いかかります。
TCWデザインとなり、より厳しい顔つきとなったルクですね。
モーガンがこの頃からベスカー槍を持っているのも少し謎…。アーマラーも、ベスカーで武器は作らないと言っていたので、大粛清後の産物だと思っていましたが、あの槍にも歴史がありそうです。。
ルクを倒すとは見事な実力。
敗北の直後だからかペレオンがルクに対して強気なのが、小説『スローン三部作』を踏まえると笑える。
いよいよスローンとご対面となるわけですが、この時点では大提督となる前の「提督」のようです。
グリーヴァスもドゥークーも亡き今、復讐の目的はいつしか忘れ去られ、すべての頑強であるシディアスが率いる帝国とともに周囲を燃やす道へと突き進むモーガンであった。
第3話「憎しみの道」(The Path of Hate)
時代は下って新共和国が誕生し、特使がやってきます。
大使は第2話で村長のウィングの近くにいたナドゥラ。あえなく新共和国加盟の話は拒否されてしまいました。
急にクロスヘアーと同じ設置爆弾の銃を出さないでくれ…。クロスヘアーロスが襲ってくる。。
新共和国の船どころか周辺の森まで燃やし、憎しみの塊と化したモーガン。
モーガン三部作について
そして「苦痛の道」へ. . . .
3話のタイトルは、『エピソード1』のヨーダのセリフと呼応しています。
Fear is the path to the dark side. Fear leads to anger. Anger leads to hate. Hate leads to suffering.
恐れはダークサイドに通じる。恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へ。
フォース感応であろうとなかろうと、人は選択することによってライトサイド、ダークサイド、どちらかに通じた道を歩むことに変わりはないのです。(もちろん完全な二元論ではないですが)
モーガンは行き場のない憎しみを利用され、スローン大提督の駒として使い捨てられるという悲しき最期に突き進んでいきます。
本作を踏まえると、『アソーカ』におけるモーガンの生き様が違って見えてくる、もしくは奥行きが深まることでしょう。
とはいえ、葬儀まで行っても復活したダソミアの人がいるので、モーガン第二章が『アソーカ』シーズン2で描かれる可能性は十分にあると思います。
ダソミアの生き残りが進んだ“別の道”
ダソミアの“サバイバー”には、悪に堕ちた者しかいないのかというと、そういう訳ではありません。
ゲーム『ジェダイ:フォールン・オーダー』では、メリンというもう1人のダソミリアンが登場します。
彼女はモーガンのようにジェダイと敵対する道を選ばず、最終的にジェダイと共に同じ道を歩んでいくことを決めました。
出会いの大切さ。。
第4話「献身」(Devoted)
共和国の監房で目を覚ますバリス・オフィー。
師匠ルミナラ・アンドゥーリと同じ格好をしています。。
フォースを通じてオーダー66の悲劇を感じ取り、看守に何があったのかと問います。
服役中の元ジェダイ(バリス)は非ジェダイ扱い、元ジェダイの軍事顧問(アソーカ)はジェダイ扱いという微妙な境界線。。
バリスが入ってたのって、ズィロとかモラロ・エヴァルが収監されてた「共和国司法局中央拘留センター」ではなくて、アソーカと同じ「共和国軍事センター」の方だったのですね。。
ということは、クロスヘアーが食堂で飯を食べ始めようとするタイミングで呼び出しされている最中にも、同じ建物内の独房にバリスがいたかもしれないってことですね!
バリスの元を訪れたのは、フォース・シスターことリン。
バリスと面識がある元ジェダイであることが判明しました。
彼女が連れられたのは建設途中の尋問官の要塞。囚人たちが建設作業に従事させられています。
バリスは大尋問官から訓練を受けることに。さすが急造組織なので、指導側との実力差が大してありません。
なんといっても、バリスは大尋問官の上司、アナキン・スカイウォーカーとそれなりにやり合ったんですからね。
最後のテスト、他方を殺した方の勝ちはありがちですが、ダークサイドの最初の一歩を進む上では効果的なテストでしょう。
しかし、バリスは既に聖堂爆破で人を殺し、レッタを絞め殺しており、経験値が違います。
無事にテストを突破し、シスターとなりました。
これ以外に道がなかったバリスに対して、諸々の事情も知った上で尋問官になろうとしたジェダイたちの動機を知りたかったなあ。。
いよいよ入社式が執り行われます。
同期生は前作『テイルズ~』でアソーカに瞬殺された名無し尋問官と、後に『アソーカ』でアソーカに斬り殺されるマロックさん。みんなアソーカと何かしらの因縁がありますね。笑
アソーカが去った直接の原因を作ったバリスに対し、ベイダーが何の反応も見せなかったことだけ残念です。。。
第5話「認識」(Realization)
ジェダイ狩り任務に出たバリスとリン。
悪役のヘルメットを被っても、歩き方が悪役っぽくありません。。
バリスはジェダイを悪だと感じ、銀河に繁栄をもたらすという皇帝のプロパガンダを信じて、尋問官を“ジェダイの進化版”のような存在として受け入れていたようです。
しかし、恐怖に利用され、恐怖を武器として利用するリンのやり方に違和感を覚えていきます。
山頂でジェダイを発見し交戦開始。
バリスは共感し、説得し、ジェダイに戦いをやめさせることに成功しますが、リンが攻撃し無力化してしまいます。
セリフで気になったのはここ。
明らかにジェダイ1人を指しているにもかかわらず、バリスが “They’re still alive.” と言っています。
ここのtheyはジェンダーニュートラルな代名詞ですね。
he or she というのは面倒なので、そもそも性を指定しない代名詞はあった方が全ての人に便利だと思うのですが、なぜ英語は複数形の they を単数に使おうと思ったのかが謎です。。非ネイティブにとっては分かりにくい…。
ついにリンのやり方、尋問官のやり方に反旗を翻したバリスは、再びジェダイとして歩むことを決めました。
第6話「出口」(The Way Out)
氷の惑星に居を構えたバリス。
“賢母様”として、暮らしているようです。
そこにフォース感応の子どもが連れてこられます。
赤子は血液検査をされたと言っているため、『バッドバッチ』と地続きとなっており、逃げるのに失敗していれば、タンティスに連れて行かれてオメガに背負われて脱出していたでしょう。。
リンがやってきたことで、親子を逃がすことにします。
行き先は、“古い友人”の“女性”とのこと。これは…アソーカ?
リンと相対するも、実力差と悟りの差がありすぎてバリスは師匠ムーブをかまします。
出口の分からない洞窟とは、まさにダークサイドの道の象徴といえるでしょう。
闇に堕ちてしまった人でも、人の優しさに触れ、出口があることを信じられれば光の下へと戻ることができる。
リンは恐怖の道を進んでいましたが、武器を捨て、バリスを抱えて、洞窟の外へ向かって歩き出しました。
洞窟を脱出した後、2人がどうなったかは描かれませんが、バリスが己を犠牲に友を救おうとした事実は変わません。
バリス三部作について
正直、ベイダーにやられる結末しか見えていなかったので、バリスの運命はまったく予想できませんでした。。
バリスはあまり理解ができないキャラクターでした。
厳格なルミナラの下で優等生パダワンをやっていて、寄生虫に取り憑かれた際にはアソーカに「自分を殺して」という献身性まで持ち合わせている、というTCW前半における人柄は理解できます。
ジェダイに不信感を覚えていき、衝撃をもたらすために聖堂爆破事件を起こすのも、突飛すぎる話ではありません。
一方で、「なぜそこまで芯が強いのに、爆破事件の黒幕として名乗り出なかったのか」、そして「なぜ親友であるアソーカを陥れてしまったのか」が全然分からないのです。
判決が出た後に、えん罪で評議会の信頼を落としたかったのかな?
この点は分からず仕舞いだったのですが、この三部作は新たなジェダイ像を描くことには成功しているでしょう。
不当に攻撃されれば応戦し、場合によっては殺すことも厭わず、救うべき対象には己の命すら捧げる。
バリスは、ライトサイドとダークサイドの両方を身に付けた希有な存在となりました。
彼女がクローン戦争中にどのような想いを抱き、いかにして聖堂の爆破を決心することにしたのかが気になってしょうがない。。
『テイルズ・オブ・クローン・ウォーズ』の製作をどうぞよろしくお願いします。
コメント
第6話について質問です。リンと比べてバリスが老けすぎているように見えますがなぜなのでしょう?フォースを使いすぎたか、もしかするとリンが老けづらい種族だったりするのでしょうか。
コメントありがとうございます!確かにだいぶシワも増えていましたね…。どちらもあり得ると思います!ヒーラーということで、己の生けるフォースを他者に注ぎ込むため、老けてしまったというのが自然か説明もしれません。あとは寒さが厳しい惑星を拠点としていたようなので、気候の影響もあるかもしれませんね。タトゥイーン住みの人がすごい早さで老けたように…。
>なぜ親友であるアソーカを陥れてしまったのか
バリスであればアソーカが評議会に不信を抱いてることに薄々感づいていたでしょうから、陥れることでそれを明確にして自分側に引き入れようと考えていたとか?ですかね。
結果、アソーカは評議会に反旗を翻すまでには至らず離脱に留まりましたが。
バリスがなぜここまでやるほど評議会を憎んだのか。
そのきっかけとなるエピソードが知りたいですね。
コメントありがとうございます!
そうですね…。シーズン5までを振り返ると、アソーカは分離主義者と直接会ったり、海賊や賞金稼ぎなどの危険人物と対峙したりすることを通して、評議会の意向に囚われすぎないバランスの取れた見方ができるようになっていたと思います。
ですが、評議会から直接的には理不尽な扱いを受けてはおらず、事件中も“不満が爆発した”というよりも、ひたすらに“裏切られた悲しさ”を見せていたように感じます。ジェダイの道しか知らなかった彼女にとっては、親から見放されるような気分だったのでしょう。なのでそこまで不信感は抱いていなかったのではないかと思います。
確かにバリスは、傷心で逃亡中のアソーカに寄り添い続けたので、不信感を高めた上で自分を頼らせようとしていた可能性もあります。ですが、黒幕だとバレたら一瞬で信頼を失うでしょう…(実際にアナキンに暴かれて失敗しましたね)。バレなくても、“死刑囚を脱獄させる”という難関を切り抜けた上で、自然に会って説得する必要があり、成功してもバレるリスクを一生抱え続けなければいけません。そもそも仲間に引き入れて何をするのかという問題もあります。
こうして書いているうちに、どちらかというとアソーカに冤罪を被せたのは、アソーカが事件捜査の担当になったという偶然の流れであって、無実の人に重罪の判決が下されることの方が核だったのかもと思ってきました。判決後や死刑執行後に名乗り出ることで、評議会の権威を失墜させようとしていたように思えてきました。(「フォースに従うとか言っておいて、政治・戦争のしがらみに縛られて無実のジェダイを殺したじゃないか」みたいな糾弾をしたかった?)
いずれにせよ、あのシーズン5最後の4話は、アソーカの物語としてよく出来すぎているので「バリスはどこからレッタをチョークしてた?」や、指摘の通り「そもそもなぜバリスが爆破事件を起こしたのか」というバリス側の話が抜けたままになっており、今回の後日談もいいけど、前日談も聞かせてくれよ状態なのは間違いないですね…。