先日、久しぶりに『エピソード3/シスの復讐』を観ていたところ、ムスタファーでのアナオビのやり取りに、ふと違和感を覚えました。
あれ、オビ=ワンってなんでアナキンが闇堕ちしたのかほとんど把握できてないのでは?
各キャラクターによって把握している情報の差がかなりある。
なんか初歩的な話だけど、他の作品の解釈もだいぶ変わってくるぞ…。
ということで、節穴だらけの目を持つ私が今更気付いたことをまとめていきます。
事実関係の整理
アナキン闇堕ちの理由
まず、大前提となる「アナキンがダークサイドに堕ちた実際の理由」から整理していきます。複合的な要因が重なっているため、はっきりと断言することは難しいですが、できる限り要点を絞って考えていきます。

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積み重なってきたジェダイ・オーダーへの不信などもありますが、直接的なきっかけから闇堕ちまでの流れは次の通りでしょう。
①パドメが出産で死ぬ夢を見る
②パルパティーンから「パドメを救うにはダークサイドの力を私から学ぶしか方法はない」と迫られる
③メイスがパルパティーンを殺そうとしたため、パドメを救うためにパルパティーンを守り、シスの弟子として命を救う力を学ばざるを得なくなる
①の夢を本気で信じたのは、同じような前兆があった上で母を亡くしたからです。
①への対処法として、アナキンはまずジェダイの助けを借りようとヨーダに相談しましたが、得られた回答は「諦めなさい」でした。
「死は生きることの一部だ。フォースに姿を変えるものを喜んで送り出せ」
by ヨーダ
元師匠であるオビ=ワンは、アナキンの不安にも気づかず、尊敬するパルパティーンのスパイをしろと命令してきます。
そんな時にパルパティーンが「愛する者を死から救う力」について言及するのです。
皮肉なのは、ジェダイの掟に関する対比。
パルパティーンが正体を明かした時に、アナキンが手を下さなかったのは、ジェダイの教えを守ったから。
一方で、メイスはジェダイの教えを破ってパルパティーンを殺そうとした結果、アナキンがシスになってしまった。
アナキンはダークサイドがパドメを死から救う道だと唆されても、すぐに受け入れることはありませんでした。パルパティーンがパドメを救うと言ってくれた唯一の頼れる相手ではあるという事実はありつつも、クローン戦争の黒幕を討ち取るという栄光に先走ることもなく、ちゃんとジェダイにシスの正体を知らせ、オーダーへの忠誠を尽くし続けていたのです。
しかし、掟を破ったジェダイに裏切られたのです。
つまり、アナキンがダークサイドに堕ちた理由は、苦肉の決断ながら、大切な存在であるパドメを死から救うための(アナキンなりの)唯一の解決策だったからと言えるのではないでしょうか。
オビ=ワン・ケノービの前提知識
次に、オビ=ワン・ケノービがアナキンの内情をEP3までにどこまで知っていたか整理します。
前の章でまとめた闇堕ちの理由を理解する上で前提知識となる「シミの死」と「アナキンとパドメの仲」についてオビ=ワンが会話している場面を各作品から振り返ります。
●エピソード2冒頭:パドメとの10年ぶりの再会で感情的になり、母のことを夢に見て悩むアナキンと話す
オビ=ワン「疲れた顔だ」
アナキン「最近眠れなくて」
オビ=ワン「お母さんのことを?」
アナキン「なぜ母の夢を見るのでしょう?」
オビ=ワン「夢は一時のことだ」
アナキン「夢を見るなら、パドメの夢を見たい。彼女との再会は夢のようです」
オビ=ワン「そういう気持ちは危険だ」
●エピソード2終盤:ドゥークー戦の直後、隣で熱い抱擁をかわすアナキンとパドメを目撃する
●小説『Brotherhood』(クローン戦争初期の時代):タトゥイーンで何があったのかをアナキンに聞けていない(アナキンの口から母シミの死の事実を聞いていない)
●クローン・ウォーズ シーズン6:パドメが元カレと仕事をすることになり、不安定になるアナキンに説教する
オビ=ワン「お前の気持ちも大体分かる。私もかつてサティーンに秘めた想いを抱いていた。そうした気持ちを持つこと自体が禁じられているわけではない」
アナキン「アミダラ議員は単なる友人です」
オビ=ワン「友人のままでいるべきだ。ジェダイとして、オーダーのために正しい選択をすることが重要だ」
●クローン・ウォーズ シーズン7:アナキンがパドメと定期的に連絡を取っていることを知っている
つまり、オビ=ワンはアナキンの母シミ・スカイウォーカーの死については、少なくともアナキンから直接真相を聞くことはありませんでした。
パドメについては、2人が親しくなったことには気付いていましたが、結婚の事実までは知らなかったでしょう。
ちなみに、シミの死について、オビワンが自分で調べて知っていた可能性はあります。ヨーダは、アナキンが深い悲しみに襲われたことをフォースを通じて知っており、その時間にタトゥイーンにいたこともオビ=ワンの転送メッセージを受けた際に知ったはずです。ヨーダが得た情報を元に、EP3より前にオビ=ワンが真相を求めてタトゥイーンを訪れていた可能性が高いと言えるでしょう。EP3最後にオビ=ワンがアナキンの親戚としてラーズ家を把握していたことも、この説の裏付けとなるのではないでしょうか。
エピソード3内でオビ=ワンが目にしたもの
以上の前提を踏まえて、火山惑星ムスタファーの戦いに至るまでに、EP3内でオビ=ワンがどのような情報を得られていなかったのかを整理していきます。
・パドメが死ぬ悪夢をアナキンが見ていたこと
・アナキンがメイスに「パルパティーンがシスである」と報告したこと
・メイスが丸腰のパルパティーンを殺そうとしたこと
一方で何を目にしたのでしょうか?
ジェダイ聖堂の監視カメラ映像のみです。映像には、アナキンがジェダイを虐殺している姿、ベイダー卿として皇帝から命令を受けている姿が映し出されます。
アナキンは最愛の人を人質にかけられながらも、ジェダイに忠誠を尽くしたのに、ジェダイ自身に裏切られたという闇堕ちの“原因”をオビ=ワンは見ることなく、「シスとしてジェダイを惨殺する」という“結果”の場面だけを見たのです。
オビ=ワンは早合点しました。
パドメに対して「何もかも議長の陰謀だ。(中略) ドゥークーの死後、アナキンがシスの弟子となっていた」と憶測を含む発言をしていることからも分かるように、闇堕ちの理由を「誘惑したパルパティーン」と「誘惑に負けたアナキン」という2点に帰結させたのです。
またまたちなみに…
オビ=ワンが見たのはジェダイ聖堂の記録映像には、師匠として命令を下すパルパティーンとそれを受け入れるベイダー卿の姿が映っていました。パルパティーンは事前にベイダーに対してムスタファー行きの指令を伝えていたにもかかわらず、わざわざ執務室を離れて「さあ、行くのだ」と言うためだけにジェダイ聖堂を訪れました。つまり、師弟関係があることを見せつけているのです。
オビ=ワンとアナキンの絆を断つため、最大限のセッティングをしていたといえるでしょう。
ヨーダがキャッシークへの出発前に、アナキンから悪夢について相談されたことをオビ=ワンに伝えていたら…
オビ=ワンがウータパウに出発する前に、アナキンになぜそこまで不満が溜まっていたんだ?と聞いていれば…
アナキンからシスの正体を聞いたメイスが、暗殺に赴く前にパルパティーンの正体をジェダイ全体に発信していれば…
私もYouTubeで見た指摘で気付いたのですが、パルパティーンがシスであることをアナキンに明かす場面。よく見るとアナキンのライトセーバー起動時に、パルパティーンも左手を動かし、一瞬ライトセーバーを袖口から出す準備をしていることを確認できます。
結果としては圧勝となったパルパティーンですが、本当にギリギリの綱渡りをしていたことが分かります。
ムスタファー再考
ということで、やっぱりオビ=ワンはかなりの誤解と共にアナキンと対決しているのが分かります。

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何なら、ドゥークーを殺した直後にシスとなる儀式を既に行っていて、パルパティーンへのスパイ任務への反応は“師匠”への詮索に対する牽制で、コルサントでの最後の会話もオビ=ワンをからかい油断させるための発言だったとか解釈していそうです。。
だからこそアナキンの言う「ジェダイの嘘」が意味することを理解できないし、反論は「パルパティーンは悪」という薄っぺらいもの。
「シスらしい決めつけ」をしているのは、パルパティーンによって情報操作されて早合点しているオビ=ワンにも言えることではないでしょうか?
ルーク、そして後世への影響
後にルークは、オビ=ワンとヨーダから情報操作を受けながらも、ダークサイドに堕ちた理由など考えず、父を信じる決断を下しました。
しかし、アナキンがダークサイドに堕ちた詳しい理由は知らないままのはずです。
そのためか、ルークはエピソード8で「ジェダイがベイダーを生んだ」という浅はかな理解でジェダイ批判を繰り広げます。
そう考えると、シークエルという物語において、ルークがレイに対してなぜベンに刃を向けたのかを素直に話し、レイがそれを受け止めて新世代オーダーを築いていくことで、ようやくジェダイの過ちの輪が閉じると言えるでしょう。

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